渡津家

 番組改編期の3月をジャンプして、ゴールデン・ウィークに日テレでは久しぶりの“石田さん家一家”、そしてテレ東では渡津家『貧乏に負けるな!? 2男12女16人ワケアリ大家族 パート14』をやっていた。
 大家族ものは、時代の流れなのだろうか。近年、あまり成立しえないジャンルになってきたような気がする。戦後の高度経済成長〜一億総中流時代の過程で、かつては当たり前のように存在していた“貧乏人の子沢山”的な家族が減ってきて、「夫婦に子供2人」の標準的な家族が日本のモデルとなり定着した現代(今は逆に晩婚化・少子高齢化が加速しているが…)の中で、レアとなりつつあった“貧乏人の子沢山”的な家族が異彩を放って、中流になった(と自意識している)自分たちに無いものを見せてくれるという趣向が受けたのではないかと思う。あとはデジタル社会の影響もあるだろう。TVだけでなくネットなどで生活が暴かれるリスクが増えているのに、自らの生活をさらけ出すのは、普通なら躊躇するはずだ。
 今は、国策と官製によりリアルに作られつつある国内の格差によって、日本は今までとは異質の貧困化が徐々に進んでおり、こうした番組を楽しく見るという余裕がなくなってきている現状もある。楽しむなら、“キワモノ”としてという感じになってしまう。
 その中では今回の“石田さん家一家”と“渡津家”はコインの表裏というか、向いているベクトルが正反対の家族のように見える。もちろんTV局の意図的な演出により、貧乏でないのに貧乏であるかのような絵作りがあるのは事実だろう。画面を通して映し出されているもののすべてが真実でないのは明らかだ。それでもこの2家族は好対照だ。
 石田さん家の素晴らしいところは、夫婦が生計を立てて家族を養っていくためにきちんと協力し合っていること、特に美容師から外資系の消費財メーカーの営業マンに転じて定年まで勤め上げたお父さんのバイタリティは見事だ。そして子供たちの“教育”に対して、きちんと向き合っているお母さん。この家は、貧乏とかそういう感じではなく、一家の成長ストーリーとして一本の柱が通っている。成長過程で紆余曲折して、お父さんのDNAを引き継いで美容師となった息子が、お母さんのヘアカットと白髪染めをしてあげたシーンはとても良かった。子供も成長し孫ができて、この夫婦は、いい年の取り方をしているのが表情に表れている。
 残念ながら渡津家は、その真逆というべきか。一家のためにあくせく働くお父さんの不器用なまでの頑張りが切なくて、必死にあがいてはいるのだけれど、どうしても一家の大黒柱としての生産性が一向に高まらない。それに対して、協力するどころか愚痴ばかりこぼすお母さん。夫婦のベクトルが同じ方向に向いていないから、今の生活から中々脱却できない。未来ある子供たちの“教育”に対しても無関心に近く、明るい話題がほとんど出てこない。今の生活を維持するだけの毎日で、TVはその“今”を機械的に伝えているだけだ。
 改変期に放送予定がなかったから、このシリーズは終わったものだと思っていたのだが、今回見た限りでは、番組を存続させるべく結構無理してネタ作りしている感が満載だった。そもそも子供も大きくなって、独立したり家を出たりして、一家は既に“大家族”の体をなしていないわけで、もう番組をやる意味なんて、本質的にはない。あとは大人の理由で続けるかどうかの話だ。故に制作的にネタが足りなくなるから、過去の夫婦のなれ初めのくだりや三女のかつての出産シーンとか、何度も放送してきた昔の映像をつぎはぎした番組構成にならざるをえない。大家族もののエッセンスとなるトラブルネタは、いつものバツ3の三女の話ばかり。いやもはやTV局側の三女頼みというべきだろう。どうやらまた新しい彼氏ができたらしく、お父さんに紹介する流れなんて、昔もそんなシーンやっていたなあと思いだす。しかし、見た目で人を判断してはいけないけど、今度の新しい彼氏、三女の3人の子供の面倒含めて結婚するのなら、ある意味“漢気”がある人物だし、逆にテキトーな奴だったらTV局的にはネタになりそうだからありがたい程度にしか思われないのか…
 もうそろそろこのシリーズ、終わりにしていいんじゃないのかな。三女の施設に預けたままの長女の存在などまったく無かったかのような扱いになっているし、具合の悪かったおばあちゃんのことも心配なのにまったく触れずじまい…唯一、明るい話題だった長女は、その後ちゃんと結婚して幸せな暮らしをしているのだろうか…ということにも触れずじまい。大事な部分を隠して無理して番組作り続けても、それはヤラセ的な方向になっていく。今回の5万円で買った車が壊れたとか、家族がなぜか体験旅行に行っていたとか、結局、何もないところにネタを作っているのだろうという無理がすでに出ている。今に始まったことではないと思うが。
 この番組、ナレーションも随所に良くないと思うところが多いのだが、前述したとおり、家族の人数は独立等で減っているにもかかわらず、お父さんが2男12女16人のために頑張って働いています、という演出は非現実的で不自然すぎる。もうお父さんをそっとしておいてあげたらと思う。自分と今の家族のことだけでも必死なのに、三女の彼氏と対峙するなんて…結構つらい。もし自分だったら、三女の彼氏には「俺みたいにはなるなよ。若いうちに必死に頑張れ。他にいい女はいっぱいいる。自分がある程度、それなりにやっていけるようになってから考えればいいじゃないか」と言ってそう。
 あとは子供たちには、できるだけ“教育”に力を入れてあげてほしい。次男の食事の際の、あの変な箸の持ち方にショックを受けたが、小さい今のうちから、ごくごく普通のことから教えていってほしいと祈るばかりである。