JAPAN

改革待ったなし ラグビー界「失われた1年」
4日付の日経新聞の記事。
シェアやツイートするファンの方も多かったので、ご覧になった方も多いと思います。
秋になって、W杯の奇跡から1年後の現在をレビューする記事が多くなりました。
今回の日経新聞の記事は、バスケットボールのBリーグのローンチとの対比も併せて書かれていて、読み応えがあります。Bリーグが導入している仕組みなどとても興味深いです。
いろいろ言われていますが、ラグビー界にとっての課題は、ガバナンス、マネージメントの意思決定と実行におけるスピード感、運営組織そのものの改革、デジタルマーケティングの導入あたりでしょうか。
川淵三郎氏のリーダーシップ、スピード感のある実行力は評価されるべきですが、逆にラグビー界の人的な問題は具体的に何なのか、いや誰が問題なのか…あたりは記事でもっと深く切り込んでもらいたかったところです。
デジタルマーケティングひとつとっても、今季からトップリーグがスマホの無料アプリサービスを止めてしまったりしていますが、明らかに時代と逆行しています。一部の試合をオンデマンドのみの放送に限定しているのもおかしい。ファン層を拡大するとか、拡大のためのサービスや投資をするとか、本気度が見えてこない。
改革するなら、まずは"リーダー"からでしょう。となるとオリンピックと一緒ですね。この問題は…
 ラグビー・ワールドカップ(W杯)史上最大の番狂わせといわれた日本―南アフリカ戦から1年がたった。ラグビーブームに沸いた日本国内も、今ではほぼ元通りの光景が広がる。トップリーグの観客は落ち込み、テレビに楕円球が映る機会も減った。対照的に華々しく始まったのがバスケットボール男子のBリーグ。開幕までの準備期間は、日本のラグビー界が失ったのとほぼ同じ1年強。史上最大級の追い風を生かせなかったラグビー界と、同期間で改革をなし遂げたバスケットボール界。その違いはどこにあったのだろうか。
■Bリーグ支える先進的な事業モデル
 発光ダイオード(LED)が床一面で光り輝く世界初のコートが話題になったBリーグの開幕戦は、1万席近い客席が発売20分間で完売。まだ開幕直後とはいえ、各クラブの観客数も、2リーグに分裂していた昨季の約2倍の水準で推移する。
 開幕戦のテレビ視聴率は5.3%。低すぎるとも評されたが、通信アプリ「LINE」の無料中継で300万人が視聴するなど、他局やネット媒体でも多数放送していた。実質的な視聴率は、プロ野球関係者の見立てでは「10%超」。視聴者層も若年層が圧倒的に多い。民放局のプロデューサーは「実質的にプロ野球巨人戦と同程度の視聴率だとしても、年齢層を見ればBリーグの方が圧倒的に魅力的」と話す。
 Bリーグが出だし上々で滑り出せたのは、「日本初」の先進的な事業モデルを次々導入できたからだ。
 「デジタルマーケティングの徹底推進」を掲げるBリーグは、チケット購入や会場入場までの一切がスマートフォン(スマホ)上で完結する仕組みを導入。同時に、誰がいつ、どの試合のどの席を買ったかというデータが蓄積される仕組みを構築した。
 データ分析により、PR戦略やチケットの価格設定などを勘頼みでなく論理的に行うことができる。今後は協会に競技者登録する60万人超のデータとの統合も計画中。潤沢なデータの魅力は、ソフトバンクと4年で推定120億円という巨額のネット放映権契約にも結びついた。
 日本代表とBリーグのスポンサー権・放映権を一括して販売する事業会社も設立。権利のまとめ売りによって、収入を拡大する。サッカーの米プロリーグMLSなどの急成長の原動力となった仕組みだ。放映権料などから各クラブへ配る資金の割り当て方法も、入場者数に応じた傾斜配分を導入。クラブの競争を促すようにした。
 手元に綿密なデータがあるから、開幕戦の翌日、リーグ側が記者会見でこうした経営データを開示することも可能になる。「開幕戦のテレビ中継終了後の3時間で、従来の2倍のチケットが売れた」「観客1人当たりの公式グッズの平均購入額は、一般的なスポーツ興行の3倍の1000円に達した」……。
 正反対だったのがラグビーのトップリーグ昨季開幕戦。招待券を過剰に出したうえ、どのルートでどれだけの枚数が流通しているかを把握できておらず、チケット完売だったのに1万人近い空席を生んだ。今季は多少改善されたとはいえ、綿密な市場調査に基づいた販売戦略がない点は変わっていない。
 W杯の恩恵を受けた昨季のトップリーグの入場者数は1会場平均で史上最多の6470人だったが、今季は第5週終了時点で17%減の5344人にとどまる。昨季よりダブルヘッダーを減らして会場数を増やすなどした影響もあるだろうが、落ち込みは大きい。
 リーグを運営する日本ラグビー協会が総観客数の目標を昨季の49万人より1割増の54万人とうたったのはいいが、具体策となると小粒なものしかない。W杯後に新たにラグビーに興味を持った人をファンに育てたり、リーグが抱える潜在的な問題を解決したりするための根本的な解決策は打ち出されなかった。
■ラグビー界、運営プロ化の動き鈍く
 なぜ、ラグビー界はファンサービスや集客に本気で取り組み、運営をプロ化しようとする動きが遅いのだろう。
 バスケットや野球、サッカーと比べ、ラグビーがプロ興行に不利な競技であるのは事実。1チームあたりの年間の試合数は、バスケットの60〜80試合に対し、体力の消耗が激しいラグビーは約30試合が上限。逆に1チームが養わなければいけない選手の数は、ラグビーがバスケットの3〜4倍に上る。ほぼ同じ業界で、店舗が少ない企業の方がはるかに多くの従業員を抱えているようなもの。
 観客数は入場料収入だけでなく、スポンサー料や放映権料などとの相関関係も強い。Bリーグの場合、今季のトップリーグと同じ平均観客数5000人を集められるクラブなら、平均年俸がサッカーJ1並みの2000万円を選手に支払えるとみられる。
 収益構造と観客数が同じなら、トップリーグは試合数を現在の2倍に増やしたとしても、選手の平均年俸は500万円にも満たないだろう。現在の日本のプロラグビー選手がはるかに高い給与を得られるのは、収益性を度外視した親会社のサポートのおかげというのが現状だ。
 しかし、企業におんぶに抱っこのまま、トップリーグが将来も維持できると考える関係者は少ない。2019年W杯日本大会、20年東京五輪という株主・社内向けの大義名分がなくなった後、強化縮小に踏み切る企業が続出しても不思議ではない。
 日本代表がW杯で生み出した追い風を生かすなら、本来はこうした根本的な問題を解決するための大きな手を打つべきではなかったか。
 検討すべきテーマはいくらでもある。トップリーグの一足飛びの完全プロ化は難しくとも、バレーボールVリーグが発表したような、各クラブの分社による運営プロ化はすぐにでも手を付けるべきだろう。
 企業の運動部がプロクラブに転換する効果は大きい。一例が、Bリーグ参入により誕生した元トヨタ自動車バスケットボール部のアルバルク東京。社長以下、スタッフ11人のうち9人はプロスポーツなどの経験のある外部の人材を招いた。「渋谷の街に根ざしたクラブ」を掲げ、センター街での選手のパレードなど、体育館の外に出てファンを増やす取り組みを始めている。
 Bリーグのような顧客データベースの完備や、チケット販売をスマホで完結できる仕組みも必須だろう。日本代表とリーグのスポンサー権をまとめて販売する事業会社は必要ないか。スポンサー集めを広告会社に、入場券販売をチケット会社に頼り切るのでなく、自分たちで稼ぐ力も磨きたい。
 国内の他競技を見るだけでも、参考にすべき事例は山ほどある。海外まで目を向ければその数は無数だ。
 観客のデータベース構築は、昨年のW杯後、W杯日本大会組織委員会が一時検討したが、採用されなかった。協会と組織委が共通でこの仕組みをつくっていれば、今季のトップリーグ開幕には間に合ったはず。
 各組織の資金力には限りはあるが、有望分野に投資すれば、数倍の利益になって返ってくる。Bリーグの顧客データベースは最大の証拠だ。こちらも遅れている交流サイト(SNS)の活用もその一つ。米プロバスケットNBAの強豪ウォリアーズは、フェイスブックがチケット販売の最大の導線になっていて、フェイスブックでのチケット販促の費用対効果は他の方法の約30倍に達しているという。
■「最もスマートな競技団体」に変貌不可欠
 プロ興行には不利なラグビーが将来も生き残っていくには、「最もスマートな競技団体」を目指す必要があるのだろう。できるだけ賢く観客を集め、同じ入場者数だったとしても、スポンサーやテレビ局に魅力的と思ってもらえるような。
 現状はこちらでもBリーグが圧勝している。しかも仕組みをつくるまでの時間はリーグ事務局が立ち上がってからの1年強。そのスピード感は称賛されるべきだ。
 知られているように、Bリーグの誕生に道筋をつけたのは元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏である。15年に日本バスケットボール協会の会長に就任。時に高い理想を掲げて夢を見せ、時に反対意見を巧みに封印する。分裂していた2リーグの統一をなし遂げたリーダーシップは、日本のスポーツ界では歴史的にも屈指だろう。
 Bリーグの勝因はもう一つある。豪腕の川淵氏だが、どうやってリーグにお金を集めて配分するかというビジネスプランや、PR方法などは若手の意見を尊重した。
 これは多様な人材がいたからできたこと。Bリーグのトップである大河正明チェアマンはJリーグ幹部からの転身。数々の事業モデルを主導した葦原一正事務局長は、プロ野球で2球団の経営幹部などを務めた経験がある。他にもプロ野球、Jリーグからの移籍組が多数いる。
 ラグビー界には、他のプロスポーツの経験がある人材はほぼ皆無。誕生以来23年がたつJリーグや、04年の球界再編以来、ビジネス面を進化させつつあるプロ野球には貴重な知見が蓄積されている。こうべを垂れてでも、その力を借りない手はないのではないか。
 昨年のW杯後のラグビー界の数少ない前向きな話題が、サンウルブズのスーパーラグビー参戦だった。ラグビー界になかった様々なファンサービスや、「オオカミの遠ぼえ」に代表される会場の雰囲気を醸成。平均入場者数は1万7000人で、ほぼ全員がお金を払って入場した観客だった。チケットの平均単価はW杯までのトップリーグの1000円以下を大きく上回る4500円に達した。
 興行的に予想を上回る健闘を見せたのは、運営法人をラグビー協会の外に出し、新たな人材を招いたことが大きかった。外資系のコンサルティング会社や、海外の大学院でスポーツマネジメントを学ぶなどした30歳前後の人材が集った。プロ野球やBリーグのキーマンの元に通い、そのノウハウを学んで運営に生かした。
■追い風生かせず、19年W杯の行方に暗雲も
 ラグビー協会にも、個々をみればラグビー界のことを懸命に考えて動こうとしている人は多い。ただ、プロスポーツの運営ノウハウが豊富でないうえ、迅速な意思決定がなされない組織体制に阻まれ、力を発揮し切れていない。
 サンウルブズが動きやすいのは、小所帯かつ、協会と別法人で動きがとりやすいことが大きい。協会やW杯組織委は数十人クラスの組織が、同様の活力を生むためには、川淵氏のような幹部のリーダーシップや、外部の人材を生かす発想が欠かせないのではないか。
 バスケット界が生まれ変わった遠因は06年までさかのぼる。世界選手権を日本で開催したが、観客を集められずに13億円の赤字を計上した。バスケット協会は一部を補填する羽目になったあげく、内部対立の激化でガバナンス(組織体制)欠如に陥った。
 同時期に始まった男子の2リーグ分裂を解決できないまま8年が経過したとき、業を煮やした国際バスケットボール連盟(FIBA)が介入。日本代表の国際試合出場を禁止するとともに、日本バスケットボール協会の理事、評議員全員に辞表を提出させるという荒療治を施した。畑違いの川淵氏を招き、権限を委ねたのもFIBA。協会の人事を含めて“更地”の状態から事業を始められたことが、Bリーグが1年強でスピーディーに立ち上げられたもう一つの理由でもある。
 02年のサッカー日韓W杯が国内で観客144万人を集めたとき、Jリーグの総観客数は548万人だった。ラグビーW杯は200万人の観客を集めなければいけないのに、トップリーグの観客は50万人弱しかいない。
 日本代表の選手、スタッフが昨年のW杯で生み出した強力な追い風があったのにもかかわらず、ラグビー界は全体のパイを広げる有効な方策をこの1年、見つけられなかった。「失われた1年」の結果、19年W杯の行方にも暗雲が漂い始めたようにみえる。
 スポーツ団体に限らないことではあるが、日本の組織は「外圧」に弱い。国際統括団体ワールドラグビーに現在、FIBAほどの動きはないが、各競技の国際連盟は頻繁に情報交換しており、バスケットの事例は熟知しているはず。日本のラグビー界の変革がなされるのが、世界大会の開催失敗による“黒船”の来訪後になったとしたら――。日本代表の昨年の活躍は全く生かされなかったことになる。